高田修三の空想科学雑談

高田修三が、幾分か科学的に、好き勝手空想する。

ショートショート 「責任感」

「もうそろそろ小学生になるのだからそんなことしていてはダメでしょう!」と母親に注意された。
なぜ小学生になると、好き勝手にやることが許されないのだろうか?少年には理解できなかった。
彼が中学生になる頃には「もうそろそろ中学生になるのだからしっかりしなさい」と言われた。
高校生になるのころには「もうそろそろ高校生になるのだからしっかりしなさい」と言われた。
高校三年生のときには「良い大学に行くためにしっかり勉強しなさい」と言われた。
彼は大学生になった。大学で彼は好きなように遊んだ。だが大学三年生の後半にもなると「そろそろ大人になるんだから、就職活動をしなさい」と言われた。
彼は気が進まなかったが、仕方なく就職活動をして大企業に入社した。
会社に入社すると上司や先輩から「社会人なんだからしっかりしろ」と何度も言われた。彼は仕事が好きではなかったがただ、仕事に対する責任感から一生懸命働いた。
彼が30歳近くになると、周りの人間から「もう30近いんだし、そろそろ家庭を築くべきではないか」と言われた。彼は適当に好きな人を見つけて二人子供をもうけた。
ちょうどそのころ「今が働き盛りだ、そろそろちゃんとした役職につかないとな」と周りに言われた。彼はそういうものかと思い昇進を目指した。40歳には部長になった。 50歳には取締役になった。
彼は別に仕事にやりがいを持っているわけではなかった。ただただ責任感から、目の前ある仕事に一生懸命に取り組んだ。そうしたら彼はもう会社には欠かせないほど有用な人材になっていた。60歳の時についに社長になった。
他の同年代の人は退職してリタイアしている人が多かった。彼も本当はそうしたかった。だが彼のおかげで今の会社は持っているようなものだ。責任感から彼は会社を辞めずに勤め続けた。
70歳には会長になった。
80歳には相談役になった。彼はもう年老いて、まともな仕事ができなくなっていたが、カリスマ経営者として名をはせていたため、名目上だけ会社に籍を置き、会社のリーダーらしいふるまいをした。
さらに月日は流れ、彼にはさらに老いが進み、認知症まで患った。それでも相談役らしく振舞おうとした。
そしてある日、会社の秘書から、「有能な人間が社長になるので、もうあなたがいなくても大丈夫ですよ」と言われた。
彼は言った「もう僕疲れちゃったよ、もうずっと休んでいいよね?」そしてすぐに静かに永遠の眠りについた。
100歳の誕生日だった