高田修三の空想科学雑談

高田修三が、幾分か科学的に、好き勝手空想する。

ショートショート「人工知能のサンタクロース」

僕の名前は春斗。今年で10歳になる、小学4年生の子供だ。
同級生のみんなは、とっくに気づいているかもしれないけど、ようやく僕も今年になって気がついたことがある。
それは、サンタクロースなんて実在しないということだ。
今まで、クリスマスの朝に目を覚ますと、僕のベッドの横に、欲しかったプレゼントがあった。
あれはサンタクロースのおかげだと思っていたけど、あれはパパとママがやっていたんだ!
僕はついにこのことに気がついてしまって、パパとママに「サンタクロースなんていないよね?」と聞いたけど「うーんどうだろう」と答えをはぐらかされてしまった。
そして今日は12月24日クリスマス・イヴ。
今日の夜に寝てしまって、朝起きて12月25日クリスマスになると、僕が眠っている間に、パパとママがこっそりと僕を起こさないように、置いてくれたプレゼントに気がつくというわけだ。
決めた!今日は眠らないぞ。そしたらママとパパはどうするのだろうか?
ママとパパは困るだろう。でもそれは今まで僕を騙してきたことへの「ふくしゅう」だ。
そして今日は夜の10時になった。いつもだったら、そろそろ寝る時間だ。
でももちろん今日は寝ないぞ。
 
するといきなり、僕の部屋の窓から声が聞こえてきた。「もしもし」
窓の外はベランダになっている。
まさかベランダにサンタクロースが?!
いやそんなはずはない!
しばらくすると、その声は「窓」自身が声を出していることが分かった。
僕の部屋の窓は「透過性ディスプレイ」と言われるものだ。
何も操作しなければ、ただの窓と同じで外の光景を写すだけだ。
でも、例えば夏の時期に冬の光景が見たければ、夏でも冬の景色の画像を映し出してくれる。
別に外の風景だけでなく、どんな映像でも映し出すことが可能である。
でも「透過性」なので、何も操作しなければ、ただの窓として、外の風景をそのまま映し出してくれる。そして、音を出すことも出来る。
雨の光景を見たければ、もちろんその映像を映し出してくれるけど、雨のザーザーという音も再生してくれる。
夏の光景が見たければ、その映像はもちろん、セミの鳴き声などを再生してくれる。
 
「春斗君。春斗君起きているかい?」
その声はやっぱり窓から聞こえている。
「透過性ディスプレイ」は画面を真っ黒にできるから、もうカーテンなんていらないけど、ママが「今の子には分からないかもしれないけど、カーテンというのはお部屋を綺麗にかざりつけるものなの」と言っていたから付けている。
僕はそのカーテンを開けた。
するとその「透過性ディスプレイ」の窓には、赤い服、赤い帽子、白いもじゃもじゃのヒゲのおじさん、つまり「サンタクロース」が映し出されているではないか!
「春斗君、そろそろ眠る時間だと思って声をかけたんだ」
その「サンタクロース」は言った。
僕は「あなたいったい?」と言ったら「私かい?私はもちろんサンタクロースだよ」とすぐに答えた。
とまどっている僕に、そのサンタは「君は以前からゲームを欲しがっていたよね。はいこれ『ゲームウォーズ』バーチャル空間の中で、ゲームで戦うものだよ。そしてこっちは『スペースパズル』パズルばかりの不思議な宇宙空間で、パズルを解きながら物語を進めていくゲームだよ。これらを、君の持っている携帯端末にダウロンードしてあげるよ」
すると、サンタが持っていた「ゲームウォーズ」と「スペースパズル」のパッケージ画面が、霧みたいにふわっと広がって消えた。
サンタが「これで君は、この二つのゲームが遊べるようになったよ。じゃ僕は忙しいのでそろそろ行かなきゃ」と言うと、僕はすかさず「ちょっと待って!」と言った。
サンタは「何かね?と言ってそこで立っていた(という映像が映し出されているだけなのだけど)」
僕は「あ、あの・・・えーと・・・あ、ありがとう!」と言った。
するとサンタは、とてもうれしそうな笑顔で「そうかい、喜んでもらえて本当に嬉しいよ!こちらこそありがとう」と言ってくれた、「じゃあ忙しいので今度こそ、おさらばしないとけないね」と言った。
するとサンタに向かって、空から、ソリを引いてくる2匹のトナカイの映像が、窓に映し出された。
もちろん本物ではないけど、その窓の映し出す映像があまりに綺麗で、本当に2匹のトナカイがソリを引いて空からやってきたように見えた。
サンタはそのソリに乗って「ではまた来年会おうね」と言って空に向かって飛んでいって去ってしまった。
僕は、あまりのことに頭の中がこんがらがってぼーっとしていた。
 
しばらくすると、僕の頭は冷静になった。
(あのサンタクロースは人工知能で、『透過性ディスプレイ』である窓に映し出されて、音声を出していただけなんだ)
(そしてあの人工知能を使ったのはママとパパだ。「ゲームウォーズ」と「スペースパズル」を僕が欲しがっていたことを知っているのはパパとママだけだから)という考えが浮かんだ。
でも僕はそれでもいいじゃないかと思った。
いつか、ママが、とある女性が恋人の彼氏をサンタクロースに例えた「恋人はサンタクロース」という曲を聴いていた。
僕は「この曲はどういう意味」と聞いたら、ママは「今のあなたにはまだ理解できないわよ」と言っていた。
さらに僕は「この曲はいつつくられたの?」と聞いたら、ママは「私が生まれるよりも前」と答えてくれた。
そんな昔の曲の意味を、子どもの僕に理解できるはずはないなと思っていた。
でも僕にはなんとなくだけど、その曲の意味がなんとなくわかったような気がする。
その女の人にとって、恋人である男の人は、サンタクロースのような素敵な人に思えたんだろうな。たぶんだけど。
僕にとっては、ママとパパが、サンタクロースである。だって、これだけ素晴らしいことをしてくれたのだから。
だから今まで、ママとパパがクリスマスに、僕が眠っている間に、こっそりとプレゼントを置いてくれたとしても、別にそれはそれで良いじゃないかと思えた。
 
12月になって、クリスマスが近づいてくると、なんだかもやもやした気持ちが大きくなって、よく眠れなかったけど、今日は久しぶりに良い気分でぐっすり眠れそうだ。
 
           完