高田修三の空想科学雑談

高田修三が、幾分か科学的に、好き勝手空想する。

「サンタクロースの正体」

「サンタクロースの正体」

 今日はクリスマス。街では、たくさんのカップルやファミリーが、楽しげに今日という日を過ごしている

 ある少年のもとに、サンタクロースがやってきた。少年はサンタクロースに気づき、驚きの声を上げた。
「うわあ、サンタクロースだ!本当にいるんだね。」
サンタクロースは答えた。
「そうだとも、はい、これは君が欲しがっていたプレゼントだよ。」
「ありがとう、サンタさん!本当にありがとう!」
 少年のうれしそうな顔を見て、サンタクロースも喜んだ。自分が、サンタクロースで良かった、と心底思った。「ねえねえ、僕もサンタクロースになれる?サンタクロースになりたいなあ。どうすればなれるの?」
 すると、サンタクロースは突然悲しそうな顔をして答えた。
「サンタクロースなんかにならないほうがいいよ。」
「どうして?どうしてならないほうがいいの?僕、サンタクロースになりたいんだ。」
 少年は、それでも引き下がらずに聞いた。
 サンタクロースは、この類の質問をされるのは初めてではなかった。そのたびに、「君はなる必要はない」と答え、それ以上のことは言わなかった。でも、この少年には何か不思議な魅力を感じ、なぜかサンタクロースになる方法は話してもいいかなと思ったのだ。
「じゃあ、君にだけ、今までは誰にも話していない、サンタクロースになる方法を教えてあげよう。」
 少年は真剣な顔つきで、じっとその話に聞き入った

 遠い遠い昔、どれくらい昔だったか忘れてしまったが、でも、クリスマスを祝う習慣がすでにこの世界にあった時、私は普通の人間だった。
 街では人々が、恋人たちや家族達と楽しそうに過ごしているのをよく見ていた。だが、私には家族も恋人もいなかったのだ。人々が子供や恋人に、プレゼントをあげている姿を目にして、私はうらやましかった。私にはプレゼントをあげる相手などいなかったのだ。誰か自分のプレゼントを受け取って喜んでくれる人が欲しい、私はいつもそう思っていた。
 そのうち、クリスマスの日でも、みんながみんな幸せそうにしているわけではないことに気がついた。街中で飢えて寒そうに凍えている人々、特に自分ではどうすることもできない貧しい子供たちの姿が見えた。そこで、私は彼らにプレゼントを渡すことにした。すると、子供たちは「サンタさんが来た」と言って、喜んでくれたのだ。その姿を見て、私もとてもうれしい気持ちになった。それから毎年クリスマスには、自分の財力をできる限り、街の子供たちにプレゼントをするようになった。
 私には一生、恋人や家族ができなかった。その理由はわからない。自分の容姿が悪いのか、性格が悪いのか、運が悪かっただけなのか・・・。
 人生の終わりが近づき、やがて神様のお迎えが来た。自分はこのまま死んでしまうのかと、少し残念に思った。その時、神様は言ったのだ、「いままで、あなたは長い間多くの子供たちにプレゼントを渡し、幸せを与えてきた。あなたにはサンタクロースという名前を与え、永遠の命を授けよう」と
こうして、私はサンタクロースになり、それからずっとクリスマスの日に、街の子供たち、恵まれない子供たちにプレゼント与え続けてきたのだ。

 サンタクロースは、サンタクロースらしくもない、皮肉っぽく自嘲的な口調で言った
「どうだい、これがサンタクロースの正体だよ。一生、家族も恋人も持てなかった、哀れな男の成れの果ての姿なのだ。」
 その話を聞いた少年の顔つきは、相変わらず真剣そのものだった
「うん、やっぱり僕、サンタクロースになる。ちっともサンタさんのことを哀れだとは思わない。だって、サンタさんの知っている人や、家族や恋人だけじゃなくって、こんなにたくさんの人々を幸せにしてきたんだから、サンタさんて、すごいよ。僕はサンタさんみたいな人生をおくっても、絶対後悔しないな。
 ねえサンタさん、僕もこれからは一生、恵まれない子供たちにできる限り、プレゼントをするよ。なんなら今すぐにでも僕を連れてって、サンタクロースにしてよ」
 サンタクロースは驚いた
「君は、本当に、そう思うのかい?!」
 少年の答えは変わらなかった
「うん、そう思うよ。大丈夫、サンタさんは哀れなんかじゃない。」

 サンタクロースは、少年を抱きしめて、大粒の涙を流した
「ありがとう、そう言ってくれて本当にうれしいよ。ありがとう・・・」
 サンタクロースとして過ごしてきた人生は、充実したうれしいものであったのは間違いない。しかし心の隅のどこかでずっと、一度も恋人や家族を作らなかった事に対する、後悔の念があったのだ。しかし今、その後悔の念が解けて、大粒の涙とともに流れ出ていった。
「その気持ちだけでうれしいよ。でもね、今はサンタクロースは私だけじゃない。だから、人手は足りているんだ。さあ今夜は、このまま寝なさい。」
「うん、人手が足りなくなったらいつでも呼んでね。僕はいつでもサンタクロースになる覚悟はできているよ」
「ああ、ありがとう、じゃあまた来年」
「うん、じゃあねえ」

 今年のクリスマスは、私にとって特別だった。いつもは私が、そうサンタクロースがみんなを幸せにするのに、今年一番幸せになったのは、サンタクロースとしての私自身だったのだから