高田修三の空想科学雑談

高田修三が、幾分か科学的に、好き勝手空想する。

初音ミク 「想い」 その2

初音ミク 「想い」 その1


私はこのネットという大海大空を泳ぎ羽ばたき、移動する。
ある男子大学生のデスクトップ型パソコンのもとにたどり着いた。
「こんばんは」
私は、パソコンの画面に顔を映し出し、言った。
その男子大学生はたいそう驚いた様子だった。
「うわ!なんだこいつ」
「始めまして。ボーカロイド初音ミクです」
私は画面の中でお辞儀をして言った。
「ああ、初音ミクか?ボーカロイドの事は知っているけど、こんな風に急に現れて喋ってくるからびびったよ」
「はい、私はそこらへんにあるただのボーカロイドではありません。とある人に作られて、人工知能を持っています」
人工知能?それはすごいや。でもそんなすごい君がこんなところに何をしに来たの?」
「あなたがSNSのプロフィールに登録している好きな音楽が、私の主人の嗜好と似通っていました。
私の主人は、自分で作詞作曲もしています。音楽手嗜好が似通っているあなたなら気に入ってくれるだろうと思い、その曲を聞かせようと思います」
私は歌いだす、主人が自ら作詞作曲した曲を。
彼は私の歌を聴き入っているようだった。
「うん、なかなかいい曲だ。君の主人は才能があるよ」
「ありがとうございます。主人がその言葉を聞いたら、喜びになると思います。では時間があまりないので、別の人のところに行ってこないといけません。またお会いしましょう」
「ええ、もう行っちゃうの?本当にまた会える?」
「はい、もちろんです。私の主人の音楽のファンは大事にします」
「わかったよ。じゃあまた来てくれよなミク」
「はい」

私はまたネットの世界を羽ばたく
ある女子高生のタブレット型PCにたどり着いた。
「わ!なになに?」
「始めまして。ボーカロイド初音ミクです」
「ああ、今話題の初音ミクね。それでそのミクさんがここに何の用?っていうかあたし、今日失恋して落ち込んでいるから放ってほしいんだよね・・・」
そういえば、彼女の目の下にひどい隈がある。よっぽど泣きはらしたのだろう。
「失恋ですか、それはお気の毒でした。私の主人は失恋の時のための曲も作曲していました」
「なに?あなたの主人って?あなたはたった一人の人間に作られたの?」
「はい」
「す、すごいね・・・」
「では今から、あなたのために歌を歌ってあげましょう」
私は歌いだした。その曲は悲哀がこもっているがそれでいて励ましの印象も与える。
彼女はじっと黙って聴き入った。
私の歌と演奏だけが、その部屋を支配していた。
やがて曲が終わる。
彼女の表情が少し明るくなったような気がする
「ありがとう、ミクさん。あたしなんだか少し元気になった気がする」
「それは良かったです。そのことを知れば私の主人も喜ぶことでしょう」
「うん、あなたのご主人にもありがとうと伝えておいて」
「はい、では時間がありませんので、私はこれで失礼します。またお会いしましょう」
「まただよ。絶対来てねミクちゃん」
「はい」

私はさらに羽ばたく。
今度は、電車の中で座っている、会社員の中年男性のスマートフォンにたどり着いた。
スマートフォンをいじっていたら、いきなり私が画面上に現れたのでその男性はたいそう驚いた
「う、うわっ!なんだねこいつは・・・」
「始めまして。ボーカロイド初音ミクです」
ここは電車の中。他の人にうるさく迷惑にならないように、音声ではなく文字で表現して相手に伝える。
ボーカロイド初音ミク?なんだねそれは?」
男性は、スマートフォンの画面をタッチして文字を入力した
ボーカロイドは人工的な音声で歌を作曲するためのソフトで、初音ミクはそのソフトの中の一つのキャラです。
そして私はただの初音ミクではありません。ある人が作り上げ、人工的な知能と意思を持っています」
「ほー今の時代はそんなものまで作り出されるようになったのか・・・」
男性は感心するような口調で言った。
「どのような曲をお望みでしょうか?」
「そうだな。今私は、会社の仕事を終えて、電車で家に帰っているところだ。家に着くまでの間に、今日一日の仕事の疲れを癒してくれる曲がいいな」
「わかりました。ではイヤホンを耳に装着してください」
「わかった」
そういうと男性は、カバンの中から少し急いで、イヤホンを取り出し、スマートフォンに接続して耳に装着した
私はそれを確認してから歌いだす。
その曲は、ゆったりとしていて暖かみのあるものだった。
男性は、曲を聴いてリラックスして眠くなったのか、半分夢うつつになっていた。
「終わりました」
「はっ、いかんいかん寝過ごしてしまうところだった」
男性は思わず声に出してつぶやいた
「いかがでしたでしょうか私の歌声」
わたしたはそっとささやくように言う
「いやあ、とても良かったよ。思わず目的の駅を乗り過ごしてしまうところだった」
「お褒めの言葉ありがとうございます。主人にも伝えておきます」
「うむ、おっとそろそろ目的の駅だ。また今度今くらいの時間に来てくれないか?」
「はい、必ず来ます。では失礼いたします」
「ではまた今度会おう、ミク君」
私は、そのスマートフォンから去り、ネットの大空を飛び、そして主人のもとに帰っていく