高田修三の空想科学雑談

高田修三が、幾分か科学的に、好き勝手空想する。

連載小説「永遠なる命へ 3」

 いざ入院してみると、意外と平凡な日々が続いた。
一日三食の普通の食事をする。
朝起きたとき、昼食前、夕食前、そして就寝前に、あのナノマシン入の点滴をする。
点滴は一回20分程度で終わる。
点滴を受けているときはただ横になっているだけでいる。
ナノマシンが自分の体の中にどんどん入ってきて、『入れ替わって』いるとは、なんだか信じられない気がした。

 勅使河原が部屋に入ってきて、「調子はどうかな?」と聞いてきた
「なんともないです」と答えた。
すると、「そうか」と勅使河原は嬉しそうな表情をして
「入院生活には退屈してきてないかな?」と聞いてきた。
ここでは、インターネットも自由にできるし、書籍も好きなだけ読める
でも、どことなく退屈な感じがしてきたのも事実だった。
「そうですね。正直、僕にとっては、とっても負担が軽いので、正直拍子抜けしたというか・・・」
「ははは、そうか。でもあのナノマシンを作るには、私を含め、多くのメンバーが、多大な努力をしたんだけどね」
「もちろん、それは知っています」
「でも、君の気持ちはわからなくもないよ。
 じゃあ、暇つぶしに、このプロジェクトに関する話をもっとしようか」
「はい、わかりました」

 「この不老不死プロジェクトだが、こういうことをやっているのは我が国、日本だけではない。
ロシアやヨーロッパ、中国、インドなどでも試みられているが、今一番勢いがいいのはアメリカだな。
世界で一番に、人間を不老不死にさせることに成功するのは、おそらく我が日本である。しかし」
勅使河原はそこでひと呼吸をおいて「しかしアメリカのやろうとしていることは、我々とは次元の異なる方法だ」
「どういうことですか?」
「我々は、一応物理的な肉体を、現実世界に残す方法だ。
ところがアメリカでやろうとしているのは、脳を『入れ替える』までは日本と一緒だが
肉体と脳を分離して、脳をスーパーコンピューターと接続して、意識を仮想世界の上で再生させて
永遠の命を得るという方法だ」
「なんだか想像がつかないですね。そんなことが本当に可能なのでしょうか?」
「いやおそらく『彼女』ならやってのけるだろうな」
「彼女?」
「そう。ジュリア・サンドバーグという名前を聞いたことはないか?」
「すみません、知らないです」
「彼女は天才IT事業家だ。最近、永遠の命を得る計画を実行に移している」
「そうなんですか。ところで彼女はほんとうにそれをできるでしょうか?」
「間違いないなく実現するだろうね」勅使河原は即答して「彼女の経歴を説明したほうがわかりやすいかな?
彼女は幼い頃から、アプリやゲームを自分でプログラミングして、それをインターネットで売ってお金を稼いでいた。
また自分でビデオゲームをプログラミングして作成して、弟とよく一緒に遊んでいた。
ところが彼女の愛する弟さんは、交通事故で亡くなってしまう。彼女がまだ12歳の頃だ。
彼女は嘆き悲しむが、ただの少女じゃなかった。
弟の生前のデータを入力して、まるで本物の弟のように振舞ってくれる人工知能を作り出した。
ライフログから作ったアバター。略して、ラバター。
彼女はこれを他の亡くなった人にも適応できるようにした。
それを売り出して、数百万ドルの資金を稼いだ。これは13歳の時」
「すごいですね・・・」
「話はまだ続く。彼女は、シリコンバレーの中心にあり、西のハーバードと言われる
超名門大学であるスタンフォード大学に16歳の時に入学している。
専攻は計算機科学、つまりコンピューターサイエンスだな
そして18歳の時に起業する。そのときに作った会社が、Xサービス」
「あ、それなら知っています。というか日本でも知らない人はいないぐらいの
超有名企業ですよね」
「そうだ。IT企業は、一つのアイデア、一つのサービスだけで起業することも珍しくないが
彼女のXサービスは違った。ありとあらゆる種類のITのサービスを、作り出し提供した。
ほとんどすべては彼女のアイデアのもとで生み出された。
彼女は19歳でスタンフォード大学を卒業する
起業して3年目にアメリカのナスダックに上場させる
そして、設立されて7年目になる現在、Xサービス社は、日本円にして、およそ時価総額20兆円になる
彼女は、会社の株式の20パーセントを保有していた。
つまり彼女の資産は、4兆円にも達する。
ちなみに彼女の今の年齢は25歳だ」
「25歳で4兆円の資産を築き上げたんですか・・・・間違いなく彼女は天才ですね」
「そう。天才だよ。本物のね。そして彼女は今年に入ってから、自分が持っている株式を
15%、およそ3兆円分を、うまいこと売り抜いた。彼女が保有する株式は5%に低下した
そして自分の意思で、会長職に就いた。さて彼女はその3兆円もの資金をどうしたと思う?」
「不老不死を実現するプロジェクトに使うことにした?」
「そう。ITで財を成した者は、資産を単純にプライベートジェットを購入したりして浪費するか、あるいわ
ロボット会社を買収したり、宇宙事業に投資したり者もいた。
彼女の場合は、医療企業を次々と買収して、不老不死財団というものを作り上げた」
「ストレートな名前ですね・・・」
「ああ、ストレートだ。でも財団に勤める人々は本気で不老不死を実現をしようとしているから、妥当な命名だと思う。」
「それで、彼女の計画はどのくらい進んでいるのですか?」
「それなんだけど、財団はどんどん系統だてられて順調に、目的を達成するための組織として成長している
ただ問題がある。彼女は自分ひとりだけ、不老不死になるのではなく、恋人と一緒に不老不死になろうとしている。
だが、その恋人が不老不死計画に乗り気ではないのだ。
ちょうど今、恋人を説得しているところらしい」
「なるほど、まあたしかに、不老不死に一緒にならないか?と誘われてすぐに、はいなります、と即答できる人は少ないでしょうね」
「だが、彼女は天才だ。ただ知性が優れているだけではない。会社を7年で世界的企業に成長させるには、相当なコミュニケーション能力も必要だったはずだ。
彼女なら、いずれ恋人を説得してしまうだろう」
「となると、あと少しで、アメリカも不老不死プロジェクトに参加することになると?」
「おそらくそうだろうね。ただ彼女の考えている、不老不死の成り方は、『入れ替える』ところは、われわれ日本側と同じ方法であり
すでに君は『入れ替え』を開始しているから、君、つまり日本が、世界で初めて不老不死を実現した国となることは間違いないと思う」
「ところで彼女は、われわれ日本側みたいに、初めて不老不死を実現した名誉を得たいという気持ちはあるのでしょうか?」
「ほとんど無いだろうね。彼女はもっと切実な気持ちで不老不死を実現したいと思っている。」
「というと?」
「先ほど述べたように、彼女は弟さんを交通事故で亡くしている。
 恋人と一緒に不老不死になろうとしているのは、ただ自分が生き延びたいだけでなく、もう愛する人が無くなる体験をしたくないからだろうね」
「そうですか・・・・」
「さて、今日はこのくらいにしようか。
何か不安や不満や、わからないことがあったら、遠慮なく私に言ってくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
勅使河原は、優しい笑顔をして、手を振ってバイバイをして、部屋を出て行った。