高田修三の空想科学雑談

高田修三が、幾分か科学的に、好き勝手空想する。

「旗振りロボット」

時は近未来。しかし、未来になっても、あいも変わらず自動車は空を飛ばず、
地上を走り、そして交通事故を起こす。そういう時や、
道路の工事中に活躍するのが、旗振りロボットである。道路上で旗を振り、走る車を誘導整理するのが仕事だ。

 とある工事中の道路上にいたロボットに、ある男が話しかけた。「お前は毎日毎日、こんなつまらない仕事をしていて辛くないか?」
するとロボットは答えた。
「イイエ。コレガワタクシニアタエラレタヤクワリデスカラ。」
それを聞いて彼は言った。
「俺もお前みたいな、単純作業の仕事を工場でしている。工場作業の多くは自動化、機械化されたが、それでも少しはどうしても人間にしかできない、しかし単純な作業はある。俺はそんな作業を毎日毎日やっている。でも、こんな単純作業をしていると、自分が虚しくなってくるんだよ。」
ロボットがそれに答えた。
「イイエ、ムナシクオモウヒツヨウハアリマセンヨ。アナタガハタライタオカゲデ、モノガツクラレテ、ソレガヒトノヤクニタッテイルノデスカラ。」
彼は少し上機嫌になって言った。
「ロボットのくせになかなか良いことを言うな、なんだか慰められたよ。」
「ワタシミタイナシゴトヲシテイルト、クルマガジュウタイシテ、イライラシテイルドライバーカラ、イカリノコエヲブツケラレルコトガアリマス。ソレヲシズメルタメニ、ナグサメノコトバヲイウキノウガ、ワタシニハソナワッテイルノデス。」
「そうか、なんだかロボットのお前に親近感がわいてきたよ。これからも仲良くしていこうぜ。」
「ハイ、カマイマセンヨ。」

男は、ほぼ毎日ロボットに話しかけるようになった。そして、日に日にロボットに対する親近感を増していった。

ある日ロボットを見に行くと、その筐体が少し壊れていた。しかし、旗振り仕事はこなしていた。
彼は驚いて言った。
「どうしたんだ!こんな怪我をしてしまって…。」
ロボットは答えた。
「ワタシノイチブガコワレテイルコトニ、ケガシテイルトイウヒョウゲンヲツカウノハ、ナンダカフシギナカンジガシマスネ。」
「不思議なんかじゃないさ。お前と俺は友達じゃないか。それよりどうしたんだ?何があったんだ?」
「ジドウシャニ、ツイトツサレマシタ。コウイウシゴトヲシテルト、コウイウコトガ、タマニアリマス。」
「大変だな。嫌じゃないのか?辛くはないか?」
「イイエ。コレガワタクシニアタエラレタヤクワリデスカラ。」

ある日、男は、変わり果てたロボットの姿を見た。それは、大破したロボットがトラックに積み込まれ、回収されようとしていた、まさにその時だった。
ロボットは「シゴト…シゴトヲシナクテワ…」とうわ言のように言い、旗を持ったまま壊れかけた手を振り始めた。ロボットは、ほとんどの機能が失われ、今、自分がどんな状況になっているのかすら理解できていないようだった。
彼はその姿を見て、思わず涙を流した。
「ああロボット…こんな姿になってしまって…。こんなになってもなお、与えられた仕事を忘れないとは…。」

そしてあっという間に、ロボットはトラックに積み込まれ、そのまま男の前を走り去った。ロボットは壊れた手を振り続けていた。彼にはその姿が、自分に対してバイバイしているように見えた。